公開日 2023年05月30日
2023.4.17
島根大学人間科学部心理学コースの石原宏先生にインタビューさせていただきました。
コロナ禍で先生方との関わりが少ない中、もっと先生方について知りたいという思いが芽生えこの企画に至りました。
記念すべき初回は、心理臨床の実践と箱庭療法を中心に研究しておられる石原先生にお話を伺いました!
実は、私たちインタビュアーの大学入学後初めての指導教員でもありました。
後編では、石原先生からみた島根大学についてお伺いしました!
【石原宏先生 プロフィール】
●研究分野:臨床心理学
●研究テーマ:箱庭療法の研究 心理臨床の研究法に関する研究
●担当科目:グループアプローチ概論、心理的アセスメント、人間関係論、心理学研究法
【目次】
ー 島根大学人間科学部心理学コースの特色
ー 臨床心理学で大事にしていることは「実践」
ー 臨床分野と実験分野の関わり合い
■「みんな先生方も一緒になって必死に???」
Q:島根大学はどうですか?過ごしやすいとか学生の雰囲気とか
石原先生 島根大学の学生さんは、なんというか、穏やかでいいですよね。教員に対して批判的な人が少ないっていうか。穏やかに楽しそうに授業を聞いてくれているイメージがありますね。
ーーー私自身も心理学を学んでいる中で、心理学を学ぶ人は批判的になりにくいように感じます
石原先生 特に臨床心理を学ぼうという人はそうかもしれませんね。共感を持って聞くことを大事にしているから。でも、研究は批判的でないと出来ない部分もあるから、批判的なところがあるのが悪いことではないとは思いますが。
あと、臨床心理に関して言えば、島根大学は、実践をとにかく大事にしながら学べる大学です。大学院まで来られたら特にそうですが。
島根大学の大学院生は学内の実習機関に位置づけられている「こころとそだちの相談センター」で実践をしながら学ぶんですが、この実践を通した教育がもの凄く充実しています。
教員にとっても、大学内の相談センターでの実践を中心に据えて教育ができるのが、島根大学の大きな魅力です。それだけ、地域の方が、相談センターを利用してくださっているということですので、これからも地域のみなさんのニーズにしっかりと応えかなければならないと思っています。
こころとそだちの相談センターの活動は、全国的に見てもほんとにすごい水準で、相談件数は、1年間に7000セッションを超えています(令和4年度)。そのうち大学院生も何百時間という部分を担っていますので、実践を通した学びは本当に充実しています。
■「島大はみんなが実践を中心に考える人たち」
Q:この大学はユング派の先生が多いですが、自然とユング派の先生が集まったのでしょうか
石原先生 自然ということはないですけど…。島根大学で働きたいと思った人が、似たような志向を持った人だったということだと思います。
臨床心理学は、大学によって充実して教えてもらえる分野っていうのが全然違うというのはありますね。
高校生の方が大学に入ってくるときにそこまで調べてこないと思いますが、その大学が力を入れて教えている臨床心理学の分野に馴染まないからと言って臨床心理に向かないわけではないので、なんか違うなーと思ったら大学院から他のところへ行くのもいいんじゃないかと思います。
ーーー石原先生はなぜ島根大学に?
石原先生 いろいろな要因がありますが。一番はそれまでに非常勤講師で来ていたことがあったからですね。夏休みに大学院生の非常勤の授業担当をさせてもらっていました。4年か5年ぐらいしたのかな。
その時に島大の大学院生さんたちにすごく活気があって、こころとそだちの相談センターの相談室での活動もすごい。こういう大学でちゃんと実践をやりながら、教員をやりたいなと感じたのが大きかったです。
ーーーなるほど
石原先生 島大は教員も大学院生も臨床心理の実践を中心に考える人たちで、実際に実践をしっかりとやりながら考える人たちが集まっているから。みんなが「実践って本当に大事だよね」と思ってやっています。
それぞれ個性はありますが、「実践が重要ですよね、実践ができなかったら他に何ができても意味がないですよね」っていう、そういう考え方はすごく共通しているんじゃないかなと思います。改めて問うまでもなく実践が重要って考える人たちが集まっている。
ーーーでも、島根だと不便に感じませんか?
石原先生 確かに今まで生活してきた大阪や京都に比べると、ないものも多いですが。ただ、そういう意味では、生活のそういう不便さを上回るものが島根にはあるっていうことかなと思います。
こんなに安心して働けるところはなかなかないって言うのかな。そういった雰囲気を作ってこられた先生方の存在が大きいなぁと思います。
ーーー教員同士の交流とかも盛んですか?
石原先生 コロナの期間があったので、なかなか難しかったですが。でも、なんというかすごく安心して一緒に働ける方々です。
ーーー安心。不思議ですね。 職場に安心って
石原先生 「心理的安全性」っていうでしょ。職場に一番大事なこと(笑) 職場で何を言っても受け入れられるっていうか。
■「もっともっと一緒にいろいろなことをやると面白いと思う」
Q:実験の分野の先生とか研究を通して思うことはありますか?
石原先生 もっと私に余力があれば、もっともっと一緒にいろいろなことをやれると面白いと思っています。
私、箱庭※に関しては、共同研究で別の大学の先生ですけど、「箱庭をやっているときの脳の活動を測る」っていう共同研究させてもらったりするし。そういうことからアプローチするっていうことにも、個人的にはとても関心があります。
(※箱庭療法…砂の入った箱のなかにさまざまな玩具(おもちゃ)などを置く心理療法の一技法)
箱庭療法で使うアイテムの一部
自分では厳密な実験はなかなかできないけれど、絶対必要な分野だと思うので。実験心理の先生は特にお忙しいですけど、心理療法でも実験的なアプローチからどんなことが有効に働いているのかとか…示せることがあったら面白いなと思っています。
実際、共同研究にも関わっていけたらなという思いはあります。
ーーーなるほど。
石原先生 島根に来る前にいた大学が、臨床心理の中でも基礎心理を中心にやってこられた先生方が、おられて、行動療法を学びたいという学生さんも多い大学だったから。
私みたいな、いわゆる力動的な心理療法をやっている人と、いわゆる実験心理からきている心理療法を一緒に教えている大学だったので、島根大学の心理学コースの構成は、割と似ているんですよね。
心理学に興味を持つ人がみんな臨床心理の実践をする必要はなくて、実験心理学で人間の心の働きを実証的に示していくことも必要だし、そういう道で大きな貢献ができる人もいると思うんですよね。
臨床心理学だけが心理学じゃないので、人間の心を多角的に解明していくというのがとても大事なことだと思います。
だから、島根大学はいい環境だと思っています。臨床心理と実験心理を両方学べるとか。今年(令和5年)の大学院生には、実験心理のゼミから臨床の大学院生になっている人もいるし。そういうことができるのは、すごく良いことだと思っています。
ーーー両方勉強できるのはいいですよね。
石原先生 最近増えてきているかなと思っているんですけど。公認心理師※の資格をとるために基礎心理をしっかりと勉強する必要があるので、基礎心理が専門の先生方が一緒に臨床心理の先生方と教えている大学が増えているんじゃないかなと。
※心理初の国家資格
ーーー島大では、授業とかもみんな臨床と実験の両方を取っていますしね
石原先生 そうそう。それはいいんじゃないかなって思います。島根大学の人間科学部の特徴の一つと言えるんじゃないでしょうか。
【最後に】
研究だけではなく、臨床心理士として現場での実践の大切さを忘れない先生方の意欲が石原先生の語りから伝わりました。
臨床分野、実験分野の両方を学べる環境である人間科学部の特色は、多角的な視野の必要性を重要視する先生と合っているのではないかと思います。
他大学での経験から比較してみる島根大学人間科学部の特徴は、私が見るよりもはっきりと際立ってみえて面白いと感じましたし、この場で学べていることが少し誇らしく思えました。
また、この記事を読んでくださった方にも、石原先生の素敵な人柄が伝わればいいなと思います!
前編では、石原先生の大学時代のお話から素顔に迫りました。是非、合わせてお読みください。
(学生広報サポーター 取材?撮影 淺井明日葉?綾部珠咲)