公開日 2023年02月28日
第110回島根大学サイエンスカフェ
「新型コロナウイルスの最近の話題」
令和5年2月20日(月)15時~16時10分
講師:島根大学医学部 微生物学講座 教授 吉山 裕規
今回は細菌学?ウイルス学専門の吉山裕規 教授が「新型コロナウイルスの最近の話題」をテーマに講演しました。令和5年5月8日を目処に「2類相当」から季節性インフルエンザと同じ「5類」への移行が発表されたばかりのタイムリーな話題で、オミクロン株の流行状況を踏まえながら、「ワクチンの現状とこれから」、「抗ウイルス薬の開発状況」、「感染症法の変更」の3点についてお話がありました。
ポリオ予防の歴史、ワクチンの種類や獲得免疫のメカニズムの基礎的なお話の後、mRNAワクチンの変異株への有効性について、デルタ株?インド由来株においても中和抗体価が有効であり、細胞性免疫の誘導に関してはオミクロン株にも有効であると説明がありました。更に、ワクチン接種回数が多い人ほど重症化率は低く、オミクロン株の流行後には人口呼吸、エクモが必要な患者は減少しているが、高齢者は依然として重症化傾向にあり継続的なワクチン接種が大切であるとデータに基づいたお話がありました。
「5類」移行の背景として、国内でのワクチン接種が令和5年2月1日時点で、3回目接種が7割に達し、最新の8波は流行が収束傾向にあることに触れつつ、オミクロン株は上部気道で感染しやすくウイルス増殖速度が速いため感染力は強くなっている点に注意を促しました。昨年9月以降に供給が始まった2価ワクチンについては、従来型ワクチンよりもオミクロン株に対する中和抗体値が1.8倍以上獲得できており、今後もオミクロン株の亜種の流行が続いていくという見通しのもと、ワクチンの改善は進んでいるとしました。
一方で、抗ウイルス薬の開発はワクチンほどに進んでいない状況であると説明しました。その理由として、ウイルス変異によるスパイクたんぱく質の変形、ウイルスが増殖する酵素を阻害する3CLプロテアーゼ阻害薬は、他の阻害剤も含めた耐性ウイルスができる可能性が示唆されており慎重な取り扱いが必要であること、インフルエンザの薬に比べて薬価が高く作用機序が少ないこと、乱用を防ぐため特定の医療機関でしか処方ができないなどの状況を挙げました。
感染症法上の分類変更については、5類への移行により行動制限ができなくなる、マスク着用が個人の判断となる等の変更点を確認しました。
最後に吉山教授は、(1)現状は病原性が低く、人に伝搬しやすいウイルスが選択されただけであること、(2)病原性の高い変異株が流行する可能性があり、監視が欠かせない、(3)ヒトを含まない動物間の感染サイクルで変異し新たな病原性を獲得する可能性もある、(4)複数の異なる作用機序の抗ウイルス薬を開発できれば脅威は少なくなる、(5)ワクチンの接種と開発は継続する必要がある、(6)感染予防対策を行わなくて済む状況には達していないという注意点を示し、話を締めくくりました。
質疑応答では参加者から、「感染者の増加は予想できるのか。」、「マスク着用の規制がなくなっても自分はなかなか外せないが、先生はマスクを外されますか。」など、戸惑いが伺える質問もありました。吉山教授は「感染者の増加は、変異株がどんな性質を持っているかによる。」、「電車内など人が密集するような危ないと判断する場所ではマスクを着けるが、風のある屋外や家族など安全だと判断すれば着用しない。」と回答しました。
今回は44名の参加がありました。参加者の皆様、ご参加いただきありがとうございました。
吉山教授の講演の様子
【お問い合わせ】
研究?地方創生部 研究推進課
0852-32-9844