公開日 2022年09月14日
環境共生科学科 吉岡秀和准教授らによる、斐伊川のアユや河川環境に関わる異分野融合の研究成果が斐伊川漁業協同組合の広報雑誌「瀬音」第15号8-9ページ(2022年7月発行)に掲載されました。
詳細はこちら → 第15号[PDF:4.07MB](斐伊川漁業協同組合の許可を得て掲載)
掲載記事
斐伊川で磨く環境研究のカッティング?エッジ:吉岡 秀和(島根大学)、濱上 邦彦(岩手大学)、田中 智大(京都大学)、辻村 元男(同志社大学)、吉岡 有美?橋口 亜由未(島根大学)、友部 遼(東京工業大学)
この記事は専門家ではなく一般の方向けに書かれたものであり、島根県東部を流れる一級河川斐伊川が直面している様々な環境や生物資源の問題について、2021年度周辺に得られた研究成果がかみ砕いて述べられています。
一例として、ここでは「藻類剥離と土砂還元」についての成果を紹介します。現在、土砂還元によるダム下流における糸状藻類の剥離効果を評価する実験が進んでいます。既往研究に見られる多くの理論では平坦な河床を考えていますが、そんな河床は野外に存在しません。そこで、岩手大学において半球状の礫模型を敷き詰めた非平坦な実験水路を開発することで、様々な流量?礫模型の大きさ?流砂量について、藻類剥離を観測しています。実験結果からは、礫間に流砂が堆砂する領域と上部を通過する流砂の領域という、流体力学的に互いに異なる性質を持つ2領域が発生すること、さらにこれらの領域が互いに異なる剥離過程を導くこと、を発見しました。また、剥離は礫全体で均等に生じるわけではないこと、どちらの領域でも流量と剥離率の関係に正の相関があること、がわかってきました(図1)
本稿では紙面の都合上、アユの成長や藻類の剥離、河川の流況などの様々なダイナミックスについてのみ焦点が当てられています。本稿の関連研究成果によって、それぞれのダイナミックスを具体的に同定できること、場合により数式で書き下すことが可能であることが既にわかっています。これにより、環境や生物資源の最適制御や将来予測といった、より進んだ研究課題に取り組むことができるようになる点も極めて重要です。例えば、最適化理論と組み合わせることで、水産業や環境管理におけるナレッジマネジメントやスマート化を進展できると期待されます。スーパーコンピュータを活用した大規模最適化においても、その根本はこうしたダイナミックスで成り立っています。
さて、環境や生物資源の管理の問題に限らず、我々人類が直面する喫緊の課題の多くは、幅広い分野からの知見を集約しなければ解決することが困難です。こうした現実の中、数学(とくに数理科学)的アプローチは多様な分野を統一言語で繋ぐハブとして機能し得る非常に強力な存在であることには疑う余地が無く、その深化は現代社会に課された重大な仕事でしょう。ですが、数学のみを深められていれば良いというものではなく、ただ単に現場で役に立つ知見のみを追求すれば良いわけでもありません。すなわち、理学と工学のどちらをも置き去りにしないことが、難しいながら重要な事項です。両者が融合して初めて現代社会に貢献する何かが産まれるという見地から、今後とも吉岡秀和准教授らによる研究が継続される予定です。
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斐伊川漁業協同組合
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TEL:0854-45-2098
斐伊川漁業協同組合HP「瀬音」掲載ページ
https://www.hiikawafish.jp/archives/category/seoto
吉岡准教授らによる過去の電子版記事(第8号-第14号に掲載)も上記リンクから無料で閲覧ならびにダウンロード可能です。
図1:流量と剥離率の関係(斐伊川漁業協同組合より、瀬音からの掲載許可を得ています。)
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