公開日 2021年09月30日
第101回島根大学サイエンスカフェを9月24日(金)に「格差がない社会にお金が落ちるということ―南の島から「平等」を考えてみる」をテーマに、学外者および本学教職員61名を迎え、法文学部社会文化学科の福井 栄二郎准教授がオンラインにて講演を行いました。
最初に、異文化に暮らす人々の風習や考え方を比較し、人間の多様性や普遍性を追求する学問である文化人類学の研究者である福井准教授から、フィールドワーク調査地であった南太平洋のヴァヌアツ共和国について紹介がありました。
ヴァヌアツ共和国は、1980年に独立した、人口が約27万人の大小約80の島からなる島嶼国です。言語はビスラマ語(国語)、英語?仏語(公用語)に加え、100以上の現地語があり、自給自足的農業を生業とする国です。調査地のアネイチュム島は、タロイモを主食とする自給自足的農業を生業とし、生活の中で現金の必要性はそれほど高くありません。また「アクロウ(akro)」と呼ばれる、私有を禁じて、みんな(親族、宗派、島民)で分かち合う共有と平等の概念、相互扶助の義務が文化的ベースとなっているため、格差が生まれず、比較的「平等」が実現されていました。人口の40%以上が1ドル以下の生活をしているため、統計上は最貧国として名が挙がることもある当国ですが、実態は、飢餓とは程遠く、「貧困」とは言い難い現実があります。
ところが近年、オーストラリア企業によるクルーズ船観光が盛況となり、島には大量の現金が投下されるようになりました。現時点では「アクロウ」の共有、分配の理念により、現金も親族に分散されており、目に見える所得の大きな格差は生まれていませんが、社会全体がゆるやかに対立しつつあるようです。
現在、コロナ禍で、観光業は一時的にストップしていますが、今後の再開に向けて、懸念すべき点もいくつかあるようです。まず、島民たちは、観光客から現金を得る目的で、想像上の「太平洋の未開人」を演じるなど、過度に演出された「文化の表象」の問題があります。また、若い世代の現金への依存、現金を多く持つ者と持たざる者による「格差」の拡大の危険性、そして自給自足農業から現金経済への転換による新たな課題の発生等の問題です。
ヴァヌアツ共和国の美しい海や島々、そして素朴な家屋や農業の様子、「アクロウ」が窺えるタロイモや豚肉料理の並ぶ地域住民の寄り合いの様子など、滅多に見ることのできない多数の写真の紹介もあり、気候や景色も、そして大发体育とは一般的に前提とされる所有や経済概念も異なる南の国の文化に思いを馳せ、質疑応答の後に、講演を終了しました。
次回の第102回島根大学サイエンスカフェは、10月25日に同じくオンラインにて開催予定です。引き続き、皆さまのご参加をお待ちしております。
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福井栄二郎 准教授(画面下)の講演
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