公開日 2021年07月20日
第99回島根大学サイエンスカフェは第2弾として7月19日(月)に新型コロナウイルスのウイルス学をテーマに、学外者および本学教職員56名を迎え、「健康長寿のための感染症包括ケア」を大テーマに、医学部微生物学講座の吉山 裕規 教授がオンラインにて講演を行いました。65歳未満の年齢層及び職域接種が始まったタイムリーな時期での開催となり、参加者も多く、多数の質問が寄せられ、関心の高さが改めて感じられる盛会となりました。
嗅覚味覚障害など、ちょっと変わった風邪の症状から始まり、その5分の1が肺炎症状を増悪させて入院、5%が重症化して人工呼吸管理となるなど、致死率が季節性インフルエンザの0.01~0.1%に比べて3~5%と明らかに高い新型コロナウイルス感染症は、その後遺症の発現も含めて恐れられており、だからこそ、その特徴と感染メカニズムについて知識を得ることが大事であるとの説明が、冒頭に講師からありました。
インフルエンザウイルスとコロナウイルスの大きな違いとして、インフルエンザウイルスは、ウイルス排出量のピークが発症とほぼ重なるが、コロナウイルスはピークの後に発症するため、感染に気付かない時期に他者に感染させてしまう特徴があり、また、ウイルス自体の生存率が高く、例えばプラスチック板の表面で72時間生存可能、また、インフルエンザウイルスが細胞内の核の中で初めてmRNAになるのに比べて、コロナウイルスは細胞内で即mRNAになるため、増殖の際にステップが一つ省略されており、増殖速度が速いなど、強い感染力の根拠と、感染メカニズムの詳細について説明がありました。
英国株、現在懸念されるインド株など、変異株が次々と流行し、また、感染力、ワクチン効果が異なる理由について、ウイルスのアミノ酸配列の45番目、48番目など、特定の場所のアミノ酸が別のアミノ酸に置き換わるだけで異なる性質を帯びる「変異」が容易に生じること、また、変異により、例えばインド株であれば、感染力が従来比2倍以上、増殖スピードが速いために潜伏期が短く、入院率が高まり、ワクチンが効きにくくなるなどの特徴が生じるとの説明がありました。変異は偶発的に常に生じており、たまたま毒性を増したものが流行する構図はインフルエンザウイルスでも同じとの補足説明がありました。
一方で、強い感染力を持つコロナウイルスは、消毒薬抵抗性が低く、一般に流通するハンドソープ、台所洗剤で十分効果があるレベルであることの説明があり、諸事情によりワクチン接種しない者であっても、適切な対応措置を取ることで感染を防御することが可能であるとの説明がありました。
ワクチンについて、自然感染と異なり、ADEと呼ばれる抗体依存性感染増強(感染を増強させる抗体(感染増強抗体)が産生されると重症化しやすい)が起こりにくいこと、また、治療薬として、アビガン、レムデシビルなどのRNA合成阻害剤があり、着実にコロナウイルスに関する研究実績は蓄積されているとの、気持ちの明るくなる話で講演を終了しました。
講義終了後に、下記の数件を含む多数の質問が寄せられ、講師から分かりやすい回答がありました。
- コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパク質の情報のみを用いてmRNAワクチンを作成したのでしょうか。
→mRNAワクチンは、表面にあるスパイクタンパク質に対する抗体を生成し、抗体を誘発させることを目的としています。その目的のために、ウイルス全体の遺伝情報は不要です。ウイルスの遺伝情報RNAのうち、ごく一部の小さいタンパク質が、スパイクタンパク質の形成に関する指示を出します。この指示がメッセンジャー(伝達)RNA(mRNA)の鎖に転写されます。このmRNAを保護膜で包んでワクチンとします。このように、スパイクタンパク質の情報に対して、mRNAワクチンを作成しています。 - PCR検査で、全ての変異株を検出できないのは何故ですか。
→ PCR検査により、生化学反応では解析することのできないレベルのごく少量の核酸(RNA)を増幅させることが可能ですが、ただ、ターゲットとする一部の遺伝情報(現在、流行している変異株の核酸配列)に対して検査するため、ターゲットとしていない新たな変異株の配列については検査対象から外れてしまうため、全ての変異株を検出することが難しくなります。
次回の第100回島根大学サイエンスカフェは、8月下旬に同じくオンラインにて開催予定です。引き続き、皆さまのご参加をお待ちしております。
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吉山 裕規 教授の講演の様子
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