今年6月、島根大学と公益財団法人手錢記念館の間で包括連携協定が締結されたのを記念し、9月14日、山陰研究センター、島根大学附属図書館、手錢記念館主催によるシンポジウム「資料から再発見する江戸の底力―手錢家所蔵資料(文書?古典籍?美術)を繋ぎ活かす取り組み―」を開催しました。
出雲市大社町に位置する手錢記念館は、手錢家に伝わる美術工芸品を展示する美術館です。江戸時代から続く同家は、藩の御用宿や町役を代々務めた商家であり、美術工芸品の他に多数の古文書や古典籍を今に伝えています。島根大学は10年以上にわたって同家に伝わる文献資料を中心に調査研究及びデジタル化と公開を進めてきました。本企画では、調査から明らかになった江戸時代の出雲における文芸活動や、手錢家所蔵資料の意義について報告しました。
当日は、残暑厳しいなか、本学教職員や地域の方50名に参加いただきました。まず、島根大学法文学部の田中則雄氏による基調講演「手錢家蔵書の形成過程を探る」では、手錢家の多様な蔵書は、手錢家歴代の人々が文芸活動に携わる中で収集?蓄積?継承されてきたものであること、文芸活動には2つのピークがあったことを明らかにされました。
個別報告では、近世の文学?歴史学を専門とする3名が登壇し、広島大学大学院文学研究科の久保田啓一氏による「杵築歌壇資料が語るもの―和歌史の見直しのきっかけとして―」、立正大学文学部の伊藤善隆氏による「近世俳諧史と大社俳壇―手錢記念館所蔵資料から見えてくるもの―」、島根大学法文学部の小林准士氏による「寛政元年の松平雪川の出雲大社参詣に見る文化交流」と題した報告が行われました。
手錢家所蔵資料から、全国的な動向と連動する出雲の文芸活動や、文芸活動の背後に横たわる松江藩と豪農層の関係も浮かび上がり、従来の近世和歌史?俳諧史を捉え直すような提言もなされました。更なる調査の進展が期待されるとともに、手錢家の調査のみならず、各地域における文献資料調査の重要性が再確認されました。
(法文学部山陰研究センター/附属図書館)