島根大学お宝研究vol.14
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?プロジェクトリーダー …荒河 一渡 Kazuto Arakawa(学術研究院理工学系?次世代たたら協創センター担当?教授)Dynamics of lattice defects in metalsWe call materials, where composing atoms are arranged periodically,“crystals.” For example, metals are crystals. Within real crystalline materials, disorders of atomic arrangement-lattice defects-are produced very easily in various processes. These lattice defects are often dominant factors controlling macroscopic properties of materials such as their strength or electric conductivity. We have succeeded in observing anomalous motion of atomic disarrangement in metals using transmission electron microscopy, for the first time.本研究では,透過電子顕微鏡を駆使して,タングステンという,水素の184倍の質量を持つ元素からなる金属において,欠陥の低温での量子拡散が起こることを世界で初めて実証しました。この結果は,金属における拡散についての約1世紀にわたる常識を打ち破るものです。本成果は,材料分野で最も影響力のある Nature Materials 誌に掲載されるとともに,国内外の複数のメディアで紹介されました。将来のエネルギー源である核融合炉の材料)の開発に役立つと期待されます。14タングステンにおける低温での欠陥の動きを直接捉えた透過電子顕微鏡写真(黒い背景に対する白い粒状コントラストは,欠陥の像。「10nm」は,1億分の1メートル。)金属における原子配列の乱れの不思議な動きを世界で初めて観測The first observation of anomalous motion of atomic disarrangement in a metal研究者紹介概 要原子が周期的に配列することによって構成されている物質を「結晶」と呼びます。たとえば,金属は結晶の一種です。実在の結晶材料には,原子配列の乱れ,すなわち結晶格子欠陥が様々なプロセスで容易に導入されます。格子欠陥は,しばしば結晶そのものの強さや電気の流れやすさなどの物性を支配する主要因子となります。私たちは,透過電子顕微鏡法を駆使して,金属における原子配列の乱れの不思議な動きを世界で初めて観測することに成功しました。特色?研究成果?今後の展望金属における原子配列の乱れ(欠陥)の動き(拡散)は,異なる種類の原子同士を混ぜるプロセス(合金化)などを支配する重要なものです。拡散の激しさ(拡散係数)の温度依存性は,約1世紀前にスェーデンのアレニウス博士が定式化した「アレニウスの法則」によって記述されます。アレニウスの法則によれば,温度の低下とともに,拡散係数は急激に低下して低温ではほぼゼロになります。すなわち,低温では拡散は起こらなくなります。一方で,水素等の極めて軽い原子だけは,低温でも,拡散係数がゼロにならない,すなわち拡散が起こることが知られています。この現象は,現代物理学の根幹をなす「量子力学」によって説明されるものであり,「量子拡散」と呼ばれます。社会的実装への展望この成果は,鉄鋼材料などを低温で改質する新たな道を開き得るものです。また,欠陥が多量に導入される材料(たとえば,金属における格子欠陥のダイナミクス

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