島根大学お宝研究Vol.13
42/47
初のステップとして重要な役割を果たすと考えられます。図1 pHを下げる細菌と上げる細菌の攻防図2 2つの共存状態とその間のスイッチA mechanism of coexistence in microbial communitiesMicrobesarewidespreadinnaturalecosystemswheretheycreatecomplexcommunities.Understandingthefunctionsanddynamicsofsuchmicrobialcommunitiesisaveryimportantthemenotonlyforecologybutalsoforhumankindbecausemicrobescanplaymajorrolesinourhealth.Yet,itremainsunclearhowsuchcomplexecosystemsaremaintained.Here,wepresentasimpletheoryonthedynamicsofamicrobialcommunity.BacteriapreferringaparticularpHintheirenvironmentindirectlyinhibitthegrowthoftheothertypesofbacteriabychangingthepHtotheiroptimumvalue.ThispH-driveninteractionalwayscausesastateofbistabilityinvolvingdifferenttypesofbacteriathatcanbemoreorlessabundant.Furthermore,amoderateabundanceratioofdifferenttypesofbacteriacanconferenhancedresiliencetoaspecificequilibriumstate,particularlywhenatrade-offrelationshipexistsbetweengrowthandtheabilityofbacteriatochangethepHoftheirenvironment.Theseresultssuggestthatthebalanceofthecompositionofmicrobiotaplaysacriticalroleinmaintainingmicrobialcommunities.38研究者紹介舞木 昭彦AkihikoMougi(学術研究院農生命科学系?生物資源科学部担当?准教授)概 要微生物たちは,自然の生態系に広く存在するだけでなく,私たちの健康に大きな役割を果たすので,そのような微生物生態系の機能と動態を理解することは,学問的にも人類にとっても非常に重要なテーマです。しかし,そのような複雑な微生物生態系がどのように維持されているかは不明のままです。ここでは,微生物群集の動態に関する簡単な理論を紹介します。特色?研究成果?今後の展望本研究では,細菌群集の動態を数理モデルにより構築し,その安定性について分析しました。腸内細菌の善玉菌と悪玉菌のように,細菌にとってpHは生存に関わる重要な環境であり,細菌はpHに影響を受けるだけでなく,自身でその環境を変化させます(図1)。その環境において特定のpHを好む細菌は,pHを自身の最適値に変えることによって他の種類の細菌の増殖を間接的に抑制するのです。このpH駆動型の相互作用は,一方の細菌が卓越した複数の共存状態を作り出すことがわかります(図2)。善玉が多い状態と悪玉が多い状態が同時に存在しえるということです。このことは,2つの共存状態が,環境変動によってスイッチする可能性を示しています。また,異なる菌のあいだで,増殖速度とpHを変える能力との間にトレードオフの関係が存在するときに,特定の共存状態(例:善玉が多い状態)に留まりやすくなることがわかります。これらの結果は,微生物のもつ性質の違いが微生物生態系のバランスに重要な役割を果たすことを示唆しており,バランスが崩れる要因やバランスを保つための条件を理解する手助けになると期待されます。社会的実装への展望本研究は,生態学において従来あまり考慮されてこなかった微生物生態系の理解,また腸内細菌の動態を理解するための最微生物生態系のバランスのしくみ
元のページ
../index.html#42