島根大学お宝研究Vol.13
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鉄や銅などの金属やシリコンなどの半導体は,結晶の一種です。実在の結晶には,原子配列の乱れ,すなわち結晶格子欠陥が様々なプロセスで容易に導入されます。格子欠陥は,しばしば結晶材料そのものの強さや電気の流れやすさなどの物性を大きく支配する主要因子となります。例えば,原子炉?核融合炉材料および高圧水素貯蔵材料等の極限環境材料,さらには自動車用鋼板などの一般構造材料は,原子~ナノスケールの原子配置の乱れ―格子欠陥―の蓄積によって劣化することが知られています。したがって,これらの材料の寿命予測や改良のためには,格子欠陥の蓄積過程を支配する格子欠陥の動的挙動を正確に理解する必要があります。原子や欠陥のランダムな移動―拡散―は,金属材料のミクロ組織を支配する極めて重要な現象です。拡散は基本的には熱エネルギーによって起こる一方で,比較的低温では量子力学的な効果によって非熱的な拡散―量子拡散―が起こり得ます。この量子拡散は,極めて軽い水素などの原子に限られる,というのが従来の固体物理?材料科学の常識でしたが,この従来の常識に反して,私達は,最近,タングステンという極めて重い原子からなる金属においても,欠陥の量子拡散が起こることを実験的に明らかにしました。成果は,従来は存在しなかったような低温における金属ミクロ組織制御への道を拓き得るものです。Wecallmaterials,wherecomposingatomsarearrangedperiodically,“crystals.”Forexample,metalsarecrystals.Withinrealcrystallinematerials,disordersofatomicarrangement-latticedefects-areproducedveryeasilyinvariousprocesses.Theselatticedefectsareoftendominantfactorscontrollingmacroscopicpropertiesofmaterialssuchastheirstrengthorelectricconductivity.Byusingtransmission-electronmicroscopy,whichenablesdirectobservationoflocalstructureswithinsolidsinatomic-tonano-scale,weareclarifyingstructuresanddynamicpropertiesofindividuallatticedefects.最も小さな欠陥(点欠陥)の模式図ナノスケールの欠陥の熱エネルギーによる動きを直接捉えた透過電子顕微鏡像(K.Arakawaetal.Science318(2007)956.)私達は最近,このような欠陥の量子効果による動きを実験的に検出することに成功した(論文投稿済み)。?プロジェクトリーダー 荒河 一渡KazutoArakawa(学術研究院理工学系?次世代たたら協創センター担当?教授)Dynamics of lattice defects in metals15研究者紹介概 要原子が周期的に配列することによって構成されている物質を「結晶」と呼びます。たとえば,金属は結晶の一種です。実在の結晶材料には,原子配列の乱れ,すなわち結晶格子欠陥が様々なプロセスで容易に導入されます。格子欠陥は,しばしば結晶そのものの強さや電気の流れやすさなどの物性を支配する主要因子となります。私達は,固体の内部の局所構造を原子スケール~ナノスケールで直接観察できる透過型電子顕微鏡法を使って,個々の格子欠陥の構造や動きに関する情報を明らかにしつつあります。特色?研究成果?今後の展望身の回りにある多くの材料は,原子が周期的に配列することによって構成されている「結晶」と呼ばれる物質です。例えば,社会的実装への展望重い原子からなる金属における欠陥の量子拡散は,世界中で私達のグループだけが検出技術を有する独創的なものです。本原子配列の乱れは,どのように動くのか?―電子顕微鏡法による微小格子欠陥の動的挙動に関する研究―How does disarrangement of atoms within materials move?金属における格子欠陥のダイナミクス

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