お宝研究Vol12
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9赤間 一仁(学術研究院農生命科学系生物資源科学部担当?教授)西川 彰男(学術研究院農生命科学系生物資源科学部担当?教授) Kazuhito Akama (Professor, Academic Assembly Institute of Agricultural and Life Sciences) Akio Nishikawa (Professor, Academic Assembly Institute of Agricultural and Life Sciences)Project Leader : プロジェクトリーダー:研究者紹介概   要特   色研究成果今後の展望社会実装への展望Establishment of the Cblin peptide-fortifited rice strain via genetic hybrizaization and its oral administration in the Xenopus laevis adults 島根県の高齢化率(65歳以上の老人の割合)は平成27年度の時点で32.5%と秋田?高知県についで全国3位です。また,要介護?認知症の高齢者は3万人と推定されています。よって,高齢化に伴う不慮の骨折により寝たきりになった場合,筋肉が萎縮してしまい,骨折が治癒した後も寝たきりという悲惨な状況になりえます。無重力や寝たきりによって筋肉が萎縮する現象は廃用性筋萎縮と呼ばれ,リハビリテーション以外に効果的な治療法が確立されていません。寝たきりの予防や治療法の開発は,高齢化先進県である島根県が取り組むべき最重要課題の一つです。私たちは抗筋萎縮ペプチドCblinを含む米の開発に成功しており,その実用化は高齢化対策の一助になるものと期待されます。また,水産業は県の基幹産業の一つであり,付加価値の高いアユやニシキゴイなどの高級魚を短期間に効率良く養殖する上で,Cblin米含有の餌が有効に用いられるのでないかと考えています。 Proportion of the aged (over 65) in Shimane Prefecture is 32.5%, the third highest in Japan (2015): the number of the elder people who need nursing care and the aged with senile dementia is estimated to be 30,000. For bedridden old people, for example, caused by accidental fracture, skeletal-muscle atrophy is a severe problem. It is, therefore, one of the most important tasks that Shimane prefecture should tackle to find a way to prevent and cure the problem which causes bedridden elders. However, there has been no established cure other than rehabilitation so far. We have succeeded in producing functional rice grains that contain Cblin peptide that acts as the anti-muscle atrophy agent, and expect to prevent muscle atrophy in the aged. Furthermore, Cblin rice would be used as an ingredient in the diet for valuable fishes like Ayu (sweetfish) and Nishikigoi, in breeding them efficiently and in a short period of time in Shimane.  抗筋萎縮ペプチドCblinはDGYMPの5つのアミノ酸からなります。Cblinは無重量や寝たきり状態になったときに筋肉を分解する指令に関わるCbl-bを阻害するCbl-b Inhibitorから名付けられました (Nakao et al., 2009)。Cblinを15回タンデムに連結した人工遺伝子を作製し,これをイネ細胞に導入して,Cblinを含む米を開発しました。マウスやツメガエルの座骨神経を切除すると,筋萎縮を誘導できます。これらモデル動物にCblin米を投与した結果,コントロール米では20%程度の筋萎縮なのに対して,Cblin米投与群ではそれが10%程度に緩和されていました。 コメのCblin含有量をさらに高めるために,異なる選抜マーカーを持つイネ同士を掛け合わせて,花粉親の選抜マーカーであるハイグロマイシンで交雑種子の選抜を行いました。この結果,交雑を行なった全ての個体でF1種子が形成されました(図1)。世代を亢進することでCblin含量が更に高まったホモ系統を選抜する予定です。筋萎縮を誘導したツメガエルを用いた試験を繰り返し,マウス同様に除神経したツメガエル成体においてもCblin米が筋萎縮を抑制することが分かりました。 筋萎縮の予防に効果を持つCblin米の実用化によって,県高齢者のQOL(生活の質)が向上するだけでなく,県内食品産業への寄与,付加価値の高い稲作農業の創生にも貢献するものと期待されます。図1.交配によるコメ中Cblin量の増大遺伝的な交雑による高Cblinペプチド含有米系統イネの確立とそのアフリカツメガエルへの経口投与試験筋萎縮を予防する高機能性米の開発とその利用Development and application of functional rice that prevents muscle atrophy

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